子供たちには、ずっとこう言ってきた。
「無理に大学へ行かなくてもいい。働いて、そのお金を証券口座に入れていく人生もあるぞ」
本気で。
親としては、たぶん少数派。
そしたら長男が、「大学に行きたい」と言い出した。
それまで勉強に前向きとは言えなかった子が、急に机に向かうように。
なんで「行かなくてもいい」と言い続けたのか。
その結果、何が起きたのか。
その記録。
先に書いておくと、放り出してるわけじゃない
「子供とはいえ他人なんだから、あとは自分で何とかしろ」
そう突き放してるように見えたかもしれない。
そうじゃない。
先に保険をかけたうえで言ってる。
といっても、保険商品じゃない。
うちは生命保険にも医療保険にも学資保険にも入ってない。
自分にとっての保険は、旧ジュニアNISAに入れた資金のほう。
制度が終わる前に、子供それぞれの口座に入れられるだけ入れた。
名義は子供だから、現実には本人が自由に使えるお金。
ただし、「好きに使っていいお金」として渡すつもりはない。
楽をさせるために作った資金じゃないから。
子供に伝えてるのは、これは進退窮まったときの保険だってこと。
将来が安泰だから好きに遊んで生きろ、って話じゃまったくない。
むしろ逆。
枠にとらわれずリスクを取って、後悔しないようにチャレンジしろと言ってる。
落ちたときに何も残らないと思ってると、人は挑戦できない。
落ちても終わらない場所があるとわかってれば、飛べる。
用意したかったのは、そのための一段だけ。
この土台を先に作ってから「大学に行かなくてもいい」と言ってる。
順番が逆なら、ただの無責任。
ただ、ここには自分でも答えの出てない問題がある。
その口座が、思ってたより増えてしまった。
保険のつもりで用意したものが、いまは「働かなくても暮らせるかもしれない金額」に近づいてる。
保険って、ふだんは存在を忘れていられる大きさがちょうどいいはず。
金額が大きくなりすぎると、「落ちても終わらない」じゃなく「そもそも飛ばなくていい」に変わってしまう。
そうなったら、この記事で書いてきたことは根本から崩れる。
正直、まだこの問題は解けてない。
金額と、そこにこめた意味を、どう釣り合わせるか。
いま現在進行形で悩んでるところ。
子供3人の口座がいまいくらで、18歳の払い出しを前に何を考えてるのかは、ジュニアNISAが増えすぎた3人分の口座の記録に書いた。
たまに進捗を見せてもいる。
でも、子供にとってはただの数字みたいで、実感がある様子はない。
増えてると言われても、自分の生活と結びつかないんだと思う。
これについては、自分も強くは言えない。
自分自身、口座の残高が1日で何十万円も動くのを見ても、いまだに実感がないから。
数字が自分のものになる感覚は、たぶん使ってみるまで育たない。
それは自分がここ数年かけて練習してることでもある(毎月5万円の積立に意味を感じなくなった話)。
疑ってたのは、昭和のレール
疑ってたのは、大学そのものじゃない。
一本道しかない、という前提のほう。
勉強して、受験して、いい大学に入って、いい会社に就職して、家族を持って、家を買って、昇進して、定年まで勤め上げる。
この順路は、かつては確かに機能してたはず。
でも、いまもこれが唯一の正解かというと、そうは思えない。
そして何より、この一本道しかないと信じこんでる人ほど、そこから外れたときに苦しむように見えた。
受験に失敗した。
就職でつまずいた。
思ったように昇進できなかった。
それだけで人生が終わったような顔をしてる人がいる。
それを、子供にはさせたくなかった。
自分自身が、レールから外れてる
えらそうに書いてるけど、自分自身がそのレールから早々に外れた人間。
常識外れの価値観を持った異端児あつかいで、出世コースからは早い段階で離脱。
保険にほとんど入ってないのもそのひとつだし、ほかにもいろいろある。
当時は引け目もあった。
でもいま振り返ると、会社の中で順当に上がる道が見えてなかったからこそ、別の場所を探し続けられたと思ってる。
じゃあ実際、数字ではどうなる?
感覚だけで語ってもしかたないので、試算してみる。
18歳から働いた場合の「先行分」
大学に行かず18歳から働くと、22歳までの4年間でこんな差が生まれる。
- 払わずに済む学費:私立理系なら年間140万円ほど。4年で560万円前後、入学金をふくめればさらに
- 4年間の収入:高卒初任給を月20万円とすると額面で年240万円。4年で960万円前後
合計すると、ざっくり1,500万円前後の差が22歳時点で生まれる計算。
それを投資に回して40年置いたら
仮に22歳で1,500万円を運用に回して、そのまま65歳まで43年間置いたとする。
| 想定利回り | 65歳時点の概算 |
|---|---|
| 年3% | 約5,300万円 |
| 年5% | 約1億2,000万円 |
| 年7% | 約2億7,000万円 |
複利の効きは、期間が長いほど極端になる。
43年という時間は、それ自体が武器。
ただし、統計は大卒が有利
都合のいい数字だけ並べるのはフェアじゃないので、反対側も書く。
公的統計では、学歴による生涯賃金の差ははっきり出てる。
男性で見ると、大卒がおよそ2.6〜2.7億円、高卒が約2.1億円、中卒が約2億円。
高卒と大卒で約5,000万円、中卒と大卒では7,000万円規模の差とされてる。
しかもこの差は、賃金だけじゃ終わらない。
- 厚生年金は報酬比例:生涯賃金が高いほど、老後の受給額も上がる
- 就ける仕事の幅:応募条件で学歴を切られる求人は現実にある
- 非正規化のリスク:学歴が低いほど不安定な雇用に入りやすい傾向がある
つまり、「投資すれば追いつける」は条件つきの話。
いちばんきついのは、40年間使わずにいること
さっきの試算には、最大の前提がある。
22歳で手にした1,500万円に、43年間いっさい手をつけないってこと。
これは相当むずかしい。
自分自身、リーマンショックのときは怖くなって、証券口座を12年間開けなかった。
結果的にそれが「売らなかった」ことになったけど、あれは根性じゃなく逃避。
若いうちに大きな金額を持って、それを使わずに40年置ける人は、そもそもまれだと思う。
それでも「終わり」じゃない
ここまで両方書いたうえで、結論はこう。
大学に行ったほうが平均的には有利。
ただし、行かなかったからといって終わりじゃない。
5,000万円の差は大きい。
でも、取り返す手段がまったくない差じゃない。
時間を味方につける。
支出を抑える。
稼ぎ方を変える。
やりようはある。
子供に伝えたかったのは、まさにここ。
「大学に行くな」じゃなく、「行かなかった場合の道も、ちゃんとある」ってこと。
選択肢を見せたら、子供は自分で大学を選んだ
で、実際に起きたのは、予想とはちがうことだった。
「行かなくてもいい」と言い続けた結果、
長男は自分から「大学に行きたい」と言い出して、勉強を始めた。
結果論だけど、いま思うのはこういうこと。
逃げ道があると知ってる人は、進む道を自分で選べる。
「行かないと終わり」と追い立てられてる状態だと、大学に行くことすら恐怖からの選択になる。
行かない道も成り立つと知ったうえで大学を選ぶなら、それは自分で決めた選択。
同じ「大学に行く」でも、中身がまるでちがう。
親が選択肢をせばめると、子供は追いつめられる。
選択肢を広げると、かえって自分で決めるようになる。
わが家で起きたのは、そういうことだった。
もちろん、これは一例にすぎない。
同じことを言って、別の結果になる家庭もあるはず。
渡してたのは進路じゃなく、持ち札だった
あとから振り返ると、子供にやってたのは「中卒で働け」と勧めることじゃなかった。
大学に行っても行かなくても使えるものを、先に用意しておいた。
それだけ。
学費として確保してたら、進学しない選択をした瞬間に無駄になる。
逆に、進学しないと決めて貯めてなかったら、行きたくなったときに詰む。
どっちにも転べる形にしておきたかった。
将来ほしいのは自由。
でも、好き勝手にやりたいって意味じゃない。
選択肢が手元に残ってる状態のこと。
株の世界にオプションって商品がある。
あれは、権利を使わなくても権利そのものに値段がつく。
選べるという状態そのものに、価値が認められてる。
子供に渡そうとしてたのも、進路そのものじゃなく、このオプションのほうだった。
だから「大学に行く」と言い出したのは、方針転換じゃない。
持ち札を持ったうえで本人が選んだ、ってだけ。
選ばなかったほうの道が残ってるのも、同じくらい大事だと思ってる。
この考え方をお金の面から整理したのが、学資保険もiDeCoも持ち家も選ばなかった|20年使っている判断基準は「選択肢が増えるか」だけです。
大学だけじゃない。
会社、家、保険、車、退職金や年金まで、昭和の価値観で敷かれた人生のレールは、どの駅も次の駅を前提にしてる。
どこで途切れても困らないように、駅ごとに持っておきたいオプションを並べたのが人生のレールは、どこで途切れるか分からない。
受験でつまずいてる人へ
この記事をいちばん届けたいのは、
いま受験や就職でうまくいかなくて、それで人生が決まったように感じてる人。
第一志望に落ちた。
行きたい会社に入れなかった。
同期に先を越された。
しんどいと思う。
でも、そこで人生の総量が確定するわけじゃない。
- 時間が残ってる:20代なら40年以上ある。複利の計算が示すとおり、期間は最大の資産
- 支出の設計は学歴と関係ない:固定費を抑えられるかどうかに、出身校は関係ない
- 入口がひとつでも、経路は複数ある:自分自身、出世コースを外れたところから別の道を探した
レールから外れることと、詰むことはちがう。
外れた場所から歩き直した人は、いくらでもいる。
※ 学歴による賃金差は統計的な事実であり、この記事は進学しないことを勧めるものではありません。ただ「進学できなかったら終わり」という思い込みは、事実とは違うということを書いています。
まとめ
子供には「無理に大学へ行かなくていい、働いて投資する道もある」と言い続けてきた。
数字で見ても、その道が完全に不利かというと、そうじゃない。
ただし統計上は大卒が有利。
しかも、40年間使わずにいるという最難関の前提がつく。
それでも伝え続けたのは、逃げ道を知ってる人だけが、進む道を自分で選べると思ってるから。
結果、長男は自分で大学を選んだ。
押しつけたわけじゃない。
選択肢を広げたら、自分で決めた。
それで十分だと思ってる。
昭和のレールは、いまもひとつの正解。
ただし、唯一の正解じゃない。
それだけは、子供にも、いま苦しんでる誰かにも伝えておきたい。
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生涯賃金のデータは労働政策研究・研修機構などの公的統計をもとにした概数で、2026年8月時点で確認したものです。学費・初任給・運用利回りの数字はいずれも仮定を置いた試算であり、実際の結果を保証するものではありません。投資に元本保証はなく、想定した利回りが得られるとは限りません。
この記事は運営者個人の考え方の記録であり、進学・就職・投資について特定の選択を推奨するものではありません。進路は本人の適性と希望によって決まるものです。

