その日、私は通帳の残高を3回数え直しました。子どもが学校からもらってきた振込用紙。締切は今週中。金額を見て、頭の中で計算して、「足りる」と分かったのに、それでも不安が消えませんでした。他に引き落としを見落としていないだろうか。児童手当は何日に入るんだったか。家計は黒字です。資産も、投資信託の評価額はきちんと増えている。それなのに、私はその夜、手元の現金のことだけを考えていました。
📋 この記事でわかること
- 家計簿では黒字なのに、手元の現金が足りなくなる仕組み
- 「投資信託は売ればすぐ現金になる」が、実際には何日かかるのか
- 手数料を払っても縮まらない部分がある、という話
- 家計簿に決定的に足りていない「もう1枚」の作り方(5分でできます)
資産はある。黒字でもある。それでも詰まりかける
先に白状しておくと、私はそのとき浪費していたわけではありません。むしろ逆でした。投資信託の積立に回しすぎていて、給料とカード支払いの差額がぎりぎりだったのです。想定どおりに進めば乗り切れる。実際、計算上は乗り切れるはずでした。狂ったのは、想定していなかった支払いが1つ増えたことだけです。
なぜそこまで積立に寄せていたのか。理由ははっきりしていて、現金を置いておくのが怖かったからです。物価は上がり続けている。口座に眠らせておくお金は、何もしていないようでいて、実質的には毎年少しずつ減っている。そう考えると、余った分は一円でも早く投資に回したくなる。私はその判断が正しいと思っていましたし、今でも方向としては間違っていなかったと思っています。間違っていたのは、「余った分」の測り方のほうでした。
後から検索してみて、少し救われたことがあります。同じ状態に陥っている人が、ちゃんといたのです。
「家計簿アプリで月で黒字なのに銀行残高がへるのは何故なんでしょうか? 実際に銀行口座も見ました。アプリと同じ残高でした」
(Yahoo!知恵袋に2023年7月に投稿された相談より要約)
この人はちゃんと家計簿をつけていて、しかも銀行口座まで確認しています。それでも分からない。私も同じでした。記録は正しいのに、記録では説明がつかない。この気持ち悪さには、ちゃんと理由がありました。
後から振り返って、なぜあんなに焦ったのかを考えました。そして、会社の決算書が3枚あることを思い出しました。貸借対照表、損益計算書、キャッシュフロー計算書。学生時代は「なぜ3枚も要るんだ」と思っていましたが、3枚あるのには理由があります。それぞれが、まったく違うものを見ているからです。
| 3枚の帳簿 | 何を見ているか | あの夜の私 |
|---|---|---|
| 貸借対照表 | 何を持っているか | ○ 投資信託は増えていた |
| 損益計算書 | もうかっているか | ○ 収支は黒字だった |
| キャッシュフロー計算書 | 現金がいつ動くか | × ここだけが見えていなかった |
家計に置き換えると、上の2枚は身近です。資産管理アプリを開けば「何を持っているか」が出る。家計簿アプリを開けば「今月もうかったか」が出る。ところが、3枚目にあたるものが、家計にはどこにも存在しない。私が持っていなかったのは、まさにこの3枚目でした。
💬 実際どうなのか
「黒字なのに現金がない」で検索すると、出てくるのは経営者向けの記事ばかりです。税理士や日本政策金融公庫が、社長に向けて解説している。つまりこれは、私だけの間抜けな話ではなく、会社経営では当たり前に起きる、名前のついた現象だということでした。
家計簿は「過去の記録」であって「未来の予定」ではない
ここが、私にとって一番大きな気づきでした。あの夜の不安を分解してみると、金額が足りないことではなかったのです。足りるはずでした。何度計算しても足りた。それなのに不安が消えなかったのは、それを確かめる手段がなかったからです。
家計簿を開いても、そこにあるのは先月使った金額です。今月あと何が引き落とされるのかは、どこにも書いていない。書いていないから、記憶をたぐるしかない。記憶をたぐるから、「他にもあった気がする」という不安が消えない。これは意志や几帳面さの問題ではなく、道具に欄がないという話でした。
会社はこれを1枚の表で解決している
会社には資金繰り表というものがあります。難しいものではありません。向こう数ヶ月の入金と出金を、ただ日付順に並べただけの表です。これがあると、「いつ、いくら足りなくなるか」が起きる前に分かる。経理が「その支払い、いつまでに要るのか先に言ってくれ」と言うのは、意地悪でも細かいのでもなく、この1枚を守るためです。
そしてもう一つ、私が救われた事実があります。営業で会社にいると、経理から支払いのタイミングを注意されている社員を、これまで何度も見てきました。給料をもらって働いている大人が、それでも同じことをやってしまう。つまりこれは、家計のやりくりが下手だという話ではなく、人間はそもそも「お金がいつ動くか」を頭の中で管理できないということなのだと思います。会社はそれを認めた上で、表を1枚用意している。家計にはその1枚がないまま、全部を自分でやれと言われている。それだけの差でした。
「売れる」と「間に合う」は、まったく違う
ここで当然、こう思う方がいるはずです。「投資信託を売ればいいだけでは?」と。私もそう考えました。金額としては、売れば十分足りたのです。それでも、解決策にはなりませんでした。
誤解のないように書いておくと、私は「投資を崩したくなかった」わけではありません。崩す覚悟はありました。問題は覚悟ではなく、工程でした。

私が持っているのは、米国株など海外の資産に投資するファンドです。国内の資産に投資するファンドなら申し込んだその日に約定しますが、海外資産のファンドは時差と現地市場の休日の関係で、約定が申込日の翌営業日以降になります。そして、そこからさらに日数がかかります。
- iFreeNEXT FANG+インデックス:約定は申込日の翌営業日の基準価額、受渡は申込受付日から起算して5営業日目(大和アセットマネジメント)
- eMAXIS Slim 米国株式(S&P500):「お申込みから実際にお客さまの口座に代金が振り込まれるまでには、通常5営業日かかります」(三菱UFJアセットマネジメント公式Q&A)
ここまでで5営業日。そしてこの時点で現金が入るのは証券口座であって、銀行口座ではありません。銀行に移す出金でさらに1営業日。合計6営業日です。土日や祝日を挟めば、実際のカレンダーでは1週間を軽く超えます。一方、振込用紙に書いてある締切は「今週中」でした。
「誰が手数料を払って即時出金するアホがいるんだ」と思っていた
ここで初めて、証券会社の即時出金サービスというものが私の視界に入りました。手数料を払えば、その場で銀行に送金してくれるサービスです。松井証券もマネックス証券も1回330円(税込)。
正直に書きます。私はそれまで、「誰が手数料を払ってまで即時出金するアホがいるんだ」と思っていました。数日待てば無料で出せるものに、なぜ330円も払うのか。完全に理解できませんでした。
そして、まさか自分がそれを本気で検討する羽目になるとは、思ってもいませんでした。手元に現金がない、というその一点だけで、私の判断はきれいにひっくり返ったのです。
⚠️ ところが、330円を払っても解決しませんでした
即時出金は「すでに証券口座にある現金」を銀行へ即座に移すサービスです。投資信託の受渡が終わるまで、そもそも動かせる現金が存在しません。つまり——
330円で買えるのは、最後の1営業日だけ。手前の5営業日は、お金を払っても1日も縮まりません。
これは私にとって、かなり衝撃的な事実でした。お金を払えば速くなる、と無意識に思っていたのです。でも、速さを買えるのは最後の一区間だけで、そこに至るまでの道のりは誰にも短縮できない。お金では買えない時間が、確かに存在していました。
しかもその330円すら、先に口座を揃えていれば要らなかった
後で調べて、もう一段こたえたことがあります。松井証券の出金には3つの方法があり、条件がかなり違うのです。
| 翌営業日以降の出金 | 即時出金 | MATSUI Bank出金 | |
|---|---|---|---|
| 手数料 | 無料 | 330円(税込) | 無料 |
| 反映 | 翌営業日/翌々営業日 | 即時 | 即時 |
| 利用時間 | 6:30〜15:45ほか | 営業日9:00〜14:50のみ | 6:30〜15:45、17:00〜翌2:15ほか |
| 下限額 | 1,000円 | 1万円以上 | 1円 |
| 1日の回数 | 1回 | 5回 | 制限なし |
(松井証券「入出金 取引ルール」より。2026年8月時点。マネックス証券も通常出金は無料、即時出金は330円で同額です)
目を引くのは手数料の差ですが、私にとって決定的だったのは利用時間でした。有料の即時出金は営業日の9:00〜14:50しか使えません。私が振込用紙に気づいたのは夜です。330円を払う覚悟をしたところで、その時間には窓口が閉まっている。使えたのは、無料で夜間もいけるMATSUI Bank出金のほうだけでした。
📎 誤解しないように補足
MATSUI Bank出金は「MATSUI Bank(ドコモSMTBネット銀行 マツイ支店)」宛てにしか出せません。学校の口座へ直接振り込めるわけではなく、そこから改めて振込が必要な2段構えです。ネット銀行なので振込自体は夜間でもできますが、この一段は省けません。また、事前に口座を開いていなければ当日は間に合いませんし、公式にも「ご利用状況によっては振込処理に時間がかかる場合があります」と書かれています。
整理すると、こうなります。最後の1営業日は、事前の準備しだいで無料にも即時にもできた。でも、手前の5営業日は誰にもどうにもできない。だとすれば、答えは一つしかありません。先に現金を置いておくしかないのです。
「増える力」があるものは、全部あの線の向こう側にいる

資産を「増えるかどうか」だけで並べると、現金は一番弱い存在になります。増えないどころか、物価が上がれば実質的に目減りしていく。だから私も、できるだけ現金を持たずに投資へ回していました。
ところが、「現金になるまでの日数」をもう一本の軸として足すと、景色が変わります。増える力があるものは、投資信託も不動産も、そろって締切ラインの向こう側にいる。線のこちら側、つまり「間に合う」側にいるのは、増えない現金だけなのです。
金融の世界で「流動性が高い」と言うとき、それは「市場で売れる」という意味です。投資信託は間違いなく流動性の高い資産です。でも家計で必要なのは、手元の使える現金になるまで何日かかるかのほう。同じ言葉で語られているのに、この2つはまったく別物でした。
💬 だから現金は「弱い資産」ではなく、弾薬
増やすために置いておくものではなく、間に合わせるために置いておくもの。そう定義し直すと、「いくら持つべきか」の答えも変わります。多いほど良いのでも、少ないほど良いのでもない。その月にいちばん残高が低くなる日から逆算するだけです。
なぜ現金が消えるのか——見えなくなる費用
もう一つ、あの夜以降に気づいたことがあります。私は自分の毎月の支出を、実際よりかなり少なく見積もっていました。サボっていたわけではありません。使っている言葉のほうに、欠けている欄があったのです。
たとえば「車の維持費は月いくらか」と聞かれたら、私はこう答えていました。ガソリン、保険、駐車場、税金と車検の月割り。合わせて月2万円ちょっと。——ここに車両本体の値段が1円も入っていません。そして、たぶん多くの人が同じように答えます。「維持費」という言葉が、最初からいちばん大きい費目を除外しているからです。
| 150万円の車に10年乗る場合 | 月額 |
|---|---|
| ガソリン | 8,000円 |
| 保険 | 5,000円 |
| 駐車場 | 5,000円 |
| 税金・車検(月割り) | 4,000円 |
| 家計簿に出てくる合計 | 22,000円 |
| 車両代 150万円 ÷ 10年 ÷ 12 | +12,500円 |
| 本当の月額 | 34,500円 |
※金額は分かりやすくするための計算例です。
家計簿は、実際の6割しか見ていないことになります。そして問題は「うっかり忘れる」ことではありません。比較を間違えることです。「車は月2.2万円、カーシェアは月3万円。だったら持っていたほうが安い」——この判断が、まるごと逆になります。
買った瞬間に、費用は終わったのではなく始まっている
なぜこの費目だけが消えるのか。理由は単純で、見えているタイミングがずれているからでした。
| 時期 | 買うときの値段 | 毎月かかるお金 |
|---|---|---|
| 買う前 | ◎ いちばん気にしている | × 気にしていない |
| 持っている間 | × 払い終わったので消える | ◎ 見ている |
| 買い替え直前 | ◎ また気にしはじめる | × |
つまり、この2つが同時に視界に入る瞬間が、一度もないのです。持っている期間中ずっと、いちばん大きい費目が画面から消えている。買うときは値段を必死に調べるのに、買った瞬間それは「終わったこと」になってしまう。
そして、これは車だけの話ではありませんでした。書き出してみると、我が家には「今は何も払っていないけれど、いつか必ずまとまった現金が要るもの」がいくつもあったのです。
- 給湯器(15年前後で寿命。交換すると20万円前後)
- エアコン(12年前後。1台15万円前後)
- 外壁と屋根(15年前後。100万円を超えることも)
- 火災保険(5年一括で払うので、その年だけ跳ね上がる)
どれも家計簿には1円も載っていません。載るのは、壊れた年だけです。だから「毎月はちゃんと黒字なのに、数年に一度、貯金がごっそり消える」ということが起きる。浪費していたのではなく、費用を計上していなかっただけでした。
会社はここが逆です。10億円の機械を買ったら、そこから毎年少しずつ費用として計上していく。減価償却と呼ばれるあれは、要するに買うときの値段を、毎月のお金に翻訳し続ける装置です。企業は買った瞬間に費用が始まり、個人は買った瞬間に費用が終わったと感じる。向きが真逆でした。
(なお、これは税金の話ではありません。家計は確定申告をしないので、住宅ローン控除のように「お金が戻ってくる」たぐいの仕組みとは無関係です。純粋に、本当の月額を知るための割り算にすぎません。)
⚠️ ローン完済の日は、ゴールではありませんでした
車のローンを払い終えたとき、その車はもう7年落ちで、買い替えまであと3年です。35年の住宅ローンを完済したとき、家は築35年で大規模修繕の時期が来ています。いちばん楽になるはずの年に、いちばん大きな現金が要る。完済の日は、次の積み立てを始める日でした。
もうひとつ、家計簿に出てこないお金がありました:毎月35万円の「往復」
見えなくなる費用の話をしましたが、私の場合はもう一段ややこしいものが動いていました。費用ですらないのに、現金だけが動いているお金です。
当時の私は、クレジットカードで投資信託を積み立てて、ポイントを受け取ったら売って現金に戻す、ということを何社ぶんもやっていました。内訳はこうです。
| 入金の方法 | 月額 | そのあと |
|---|---|---|
| 銀行からの自動入金 | 5万円 | 売らずに保有 |
| カード決済(3社ぶん) | 35万円 | 売って現金に戻す |
毎月35万円が、出ていって、戻ってきます。ここが落とし穴でした。自分の口座から自分の口座への移動は「振替」なので、家計簿では支出になりません。家計簿アプリも支出として数えません。理屈としては、そのとおりです。減っていないのですから。
ですが、実際には現金が動いています。帳簿の上では静かなまま、現金だけが毎月35万円ぶん、口座のあいだを移動していたわけです。
銀行からの入金なら、こうはなりませんでした
同じ積立でも、上の表の5万円のほうは一度も困りませんでした。銀行から自動で引き落とされるので、引かれた瞬間に残高が減るからです。いま見ている数字が、そのまま現状です。
カード決済の35万円は違いました。
⚠️ そのつど確認しないと分からないこと
- いま見ている銀行残高は、今月の引き落としが済んだあとの数字なのか、まだ引かれる前の数字なのか
- 売った代金は、いつ証券口座に反映されるのか
- 反映されたお金は、いつ銀行に動かせるのか
- そしてこれが、カードごとに締め日も引き落とし日も違う
落ち着いているときは、確認すれば済む話です。1社ずつ画面を開いて数えれば答えは出ます。ここまでは、ただの手間です。こたえたのは、その先でした。
頭の中で、同じ3行をぐるぐる回していました
いけるはずだ。
でも、何か忘れている引き落としが別にあったら足りないかもしれない。
いや、把握できているはずだ。
株が暴落したときのパニック売りに近い感覚でした。FXで言えば、ロスカットの水準に近づいているときのあの落ち着かなさです。冷静に計算すれば大丈夫だと分かっているのに、頭がそこから離れない。
そして当時の私は、残高ぎりぎりまで現金を投資に回していました。暴落のあいだも売らずに持ち続けて、そのぶん手元を薄くしたまま引っ張っていたんです。そこにこの往復が乗っていました。合計では足りていたはずですが、その日その口座に振り込める額があるかは別の話です。
投資信託が減るのと、生活口座が減るのは、まったく違います
| 減っていくとき、頭の中で起きること | |
|---|---|
| 投資信託 | ゼロになることはまずないし、大きく減っても生活は止まらない。そして待てば戻る |
| 生活口座 | ゼロになったら生活が止まる。しかも次の入金日まで、待っても戻らない |
私は2022年に資産が6割溶けた年も、売らずに持ち続けました。1年で872万円減った年も積立を続けました。その私が、生活口座が細くなった月には落ち着いていられませんでした。桁は比べものにならないほど小さいのにです。理由は単純で、片方は待てば戻るもので、もう片方は待っても戻らないものだからです。暴落は数年待てば戻ります。生活口座は、次の給料日まで1円も戻りません。
💬 「借金をすると人は馬鹿になる」と同じ状態でした
借金があると判断力が落ちる、とよく言われます。目先の返済に頭が占領されて、長い目で見た選択ができなくなる、という話です。
私に借金はありません。資産で言えば増えている最中でした。それでも同じ状態になっていました。残高という一点に頭が引っ張られて、他のことが考えられなくなる。勝手に馬鹿になっていた、というのがいちばん近い言い方です。
会社が黒字なのに倒産することがあると聞いても、正直よく分かっていませんでした。利益が出ているのに潰れるって何だろう、と。自分の家計で「減っていないのに、払えるかどうか言えない」を味わって、ようやく意味が腹に落ちました。利益と現金は、別のものを数えている——というだけの話でした。
口座とカードが増えるほど、これは悪化します
そしてもうひとつ気づいたことがあります。この状態は、銀行口座とクレジットカードの枚数に比例して悪くなります。
引き落としが、いつ、どこから、いくら出るのか。1口座1カードなら覚えていられます。ですが家計簿アプリに連携している金融機関を数えたら20を超えていて、そのころにはもう言えなくなっていました。締め日も引き落とし日もカードごとに違うので、月末の残高が読めなくなります。
💬 いちばん皮肉だったこと
ポイントの還元を最大化しようとして口座とカードを増やし、増やしたせいで自分の現金の位置が見えなくなっていました。年に数万円のポイントを取りにいって、支払日に払えなくなりかけたわけです。割に合っていません。
いま私は、証券口座も銀行口座もカードも減らしている途中です。ポイ活の手間が面倒だから、という理由ではありません。いつ、どこから、いくら引き落とされるのかを、自分の頭で言える状態に戻したいからです。「把握できる数」まで減らすこと自体が、いちばん効く対策でした。
✅ 対策:家計簿では見つからないので、こう探します
家計簿アプリの「振替」または「口座間移動」の履歴を、直近1か月ぶん開いてください。支出のページには出てきません。そこに並んでいる金額の合計が、あなたの家計で「帳簿には出ないのに動いている現金」です。0円だった方は、この問題は起きません。数十万円あった方は、月末の残高が読みにくくなっているはずです。
今日できること:家計簿ではなく、これを1枚
ここまで長く書きましたが、私がその後にやったことは、たった1つです。5分で終わりますし、アプリも登録も要りません。紙でもスマホのメモでも構いません。

向こう2ヶ月に起きることを、日付順に並べるだけ。家計簿と決定的に違うのは、過去を書かないことです。書くのは未来だけ。会社の資金繰り表とまったく同じ考え方です。
| 日付 | 内容 | 入る | 出る | 残高 |
|---|---|---|---|---|
| / | 今日の残高 | — | — | |
| / | ||||
| / |
✍️ 書くときの3つのコツ
- 見るのは合計ではありません。月の収支が黒字かどうかは、この表の目的ではない。見るのは「残高がいちばん低くなる日と、その金額」だけです。
- 完璧を目指さないこと。抜けは必ずあります。書きながら「あ、車検があった」と思い出せたら、その時点でこの表の役目は半分果たしています。
- 最後に1行だけ足す。今持っていて、いつか必ず買い替えるものを1つ選び、値段÷使う年数÷12を出してください。それが、これまで一度も計上されていなかった月額です。
この表を書いてから、私の中で「現金をいくら持つか」の考え方が変わりました。よく言われる「生活費の半年分」という目安は、正直あまりに遠くて実感が湧きませんでした。でも残高がいちばん低くなる日の金額なら、自分の生活の数字です。そこに、想定外の1つ分の余白を足しておく。それだけで、あの夜の私は通帳を3回も数えずに済んだはずです。
それでも、子どもを責める気にはなれなかった
最後に、この話でいちばん考えたことを書かせてください。
子どもには何度も言いました。「急に言われても、いつでもお金があるわけじゃないから、早めに見せてほしい」と。でも、たぶん伝わっていません。うちは貧乏な暮らしをしているわけではないので、子どもの目には余裕があるように見えているのだと思います。「資産はあるけど、現金はないんだ」と説明しても、たぶん意味が分からない。
でも、それは当然です。子どもは「親の口座に今いくらあるか」という概念そのものを持てないのですから。財布に千円入っていれば「ある」に見える。躾でどうにかなる範囲を超えています。しかも、さっき書いたとおり、給料をもらって働いている大人ですら、会社で経理に同じことを注意されている。
だから私は、伝え方でどうにかしようとするのをやめました。相手に理解させるのではなく、こちら側の仕組みで吸収する。そのための1枚が、あの表です。振込用紙がいつ来ても、その日の残高がすでに紙に書いてあれば、私は3回も数え直さなくていい。
よくある質問
Q. 投資信託は「すぐ売れる」と聞きましたが、違うのですか?
A. 「売れる」のは本当です。値段がつかず買い手が現れない、ということはまず起きません。ただし、売却を申し込んでから実際に使えるお金になるまでは別で、海外資産のファンドだと受渡までおよそ5営業日、そこから銀行に移してさらに1営業日かかります。「売れる」と「間に合う」は別の話でした。
Q. 即時出金を使えば解決しますか?
A. 部分的にしか解決しません。即時出金が動かせるのは、すでに証券口座に入っている現金だけです。投資信託の受渡が終わるまでの日数は、手数料を払っても縮まりません。また有料の即時出金は営業日の日中しか使えないため、夜や休日に必要になった場合は選択肢に入りません。
Q. 結局、現金はいくら持てばいいのですか?
A. 一般論の「生活費の半年分」より、自分の資金繰り表で残高がいちばん低くなる日の金額を見るほうが実用的だと思っています。そこに、想定外の支払い1回分の余白を足す。多く持てば持つほど良いわけでもありません。物価が上がる局面では、現金は静かに目減りしていきますから。
Q. 家計簿アプリを使っていれば十分では?
A. 家計簿アプリが得意なのは「過去にいくら使ったか」です。「来週いくら出ていくか」は、多くの場合そこには入っていません。私が必要だったのは後者でした。両方を持つのが理想ですが、どちらか1つなら、私は未来のほうを選びます。
📝 まとめ
- 家計簿は「過去の記録」。「未来の予定」を書いた1枚が別に要る
- 不安の正体は金額不足ではなく、確かめる手段がないこと
- 投資信託は売れる。でも現金になるまで6営業日かかり、間に合わないことがある
- 330円で買えるのは最後の1営業日だけ。手前は誰にも縮められない
- だから現金は「弱い資産」ではなく、間に合わせるための弾薬
- 持ち物の本当の月額は、買値÷使う年数÷12を足して初めて出る
まずは向こう2ヶ月を、日付順に1枚。残高がいちばん低くなる日を見つけるところからです。

