毎年11月頃になると、職場が少しざわつきます。年末調整の保険料控除の記入です。
みんな控除証明書を何枚も引っ張り出してきて、一般生命保険料と介護医療保険料と個人年金保険料に分けて、旧制度か新制度かを確認して、計算欄を埋めていく。けっこうな手間です。
私はその欄が全部空欄なので、数分で終わります。生命保険も医療保険も、人生で一度も契約したことがないからです。
毎年決まって言われるのが、これです。
「控除で税金が戻るんだから、入ったほうが得ですよ」
20年以上言われ続けてきました。この記事では、その言葉が本当かどうかを数字で確かめます。
まず制度の中身|控除額には上限がある
生命保険料控除は、払った保険料に応じて所得から一定額を差し引ける制度です。ポイントは「払った額がそのまま戻るわけではない」という点にあります。
2012年(平成24年)以降に契約した新制度では、控除は3つの区分に分かれています。
| 区分 | 所得税の控除上限 | 住民税の控除上限 |
|---|---|---|
| 一般生命保険料控除 | 4万円 | 2.8万円 |
| 介護医療保険料控除 | 4万円 | 2.8万円 |
| 個人年金保険料控除 | 4万円 | 2.8万円 |
| 合計の上限 | 12万円 | 7万円 |
ここで大事なのは、これは「所得控除」であって「税額控除」ではないということです。控除額がそのまま戻るのではなく、控除額に自分の税率を掛けた分だけ税金が減ります。
では実際いくら戻るのか
仮に上限いっぱいまで控除を使った場合で考えます。所得控除が所得税12万円・住民税7万円。
所得税率が10%の人なら、所得税の軽減は12万円×10%で1万2,000円。住民税は税率10%なので7万円×10%で7,000円。合計で年およそ1万9,000円です。
ただし、この控除枠を使い切るには相応の保険料を払っている必要があります。払った保険料が年10万円でも20万円でも、戻ってくるのはこの程度ということになります。
つまり差し引きでは、払ったほうが確実に多い。
※ 税率は所得によって変わります。上の数字はあくまで一例です。ご自身のケースは国税庁の資料や源泉徴収票でご確認ください。
2026年分だけ、一般生命保険料控除の枠が広がっています
ひとつ補足しておきます。
2026年分に限り、23歳未満の扶養親族がいる家庭は、一般生命保険料控除(新契約分)の上限が4万円から6万円へ拡大されています。所得税についての時限措置で、控除全体の上限12万円は変わりません。
子育て世帯にとっては拡充です。ただし枠が広がっても、戻る額が払う額を超えることはありません。構造そのものは変わりません。
「控除があるから得」が成り立たない理由
整理すると、こういうことです。
- 保険料を年10万円払う → 戻るのは1万円前後
- 保険料を払わない → 手元に10万円がそのまま残る
保障が要らないのであれば、払わないほうが手元に残るお金は多い。これは計算するまでもない話です。
控除は「保険料の一部を国が負担してくれる仕組み」であって、「保険に入ると儲かる仕組み」ではありません。割引券をもらうために、要らないものを買っている——私にはそう見えます。
逆に言えば、保障が必要で入るなら、控除はおまけとして素直に受け取ればいい。順序の問題です。保障が先で、控除は後。
なお、年末調整だけでは完結しない控除もあります。医療費控除がその代表で、これを使う年はふるさと納税のワンストップ特例が無効になります。詳しくは医療費控除とふるさと納税を両立させる方法にまとめました。
では、どういう人なら控除を理由にしていいのか
控除を判断材料にしていい場面もあると思っています。
- 必要な保障が先に決まっている場合:同じ保障内容で複数の選択肢があるとき、控除区分の使い方で有利なほうを選ぶのは合理的です
- 個人年金保険料控除の枠が空いている場合:老後資金を別途用意する前提があるなら、枠の活用を検討する余地はあります
- すでに加入していて、解約の判断を迷っている場合:控除も含めた実質負担で考えるのは正しい計算です
いずれも共通しているのは、「保障が要るかどうか」を先に決めているという点です。控除から入っていない。
私が年末調整で空欄を出し続けている理由
私は自動車保険と火災保険にしか入っていません。理由は控除ではなく、公的制度と貯金で吸収できないリスクだけに保険を使うと決めているからです。
高額療養費制度があり、傷病手当金があり、遺族年金がある。会社員はそれなりに守られています。そこを確認したうえで、それでも埋まらない部分だけを保険にしています。
結果として控除欄は空欄になりますが、それは目的ではなく結果です。
「え、もう終わったんですか」と言われるのは、正直ちょっと楽しい。20年以上続いている、年に一度の恒例行事みたいなものです。
よくある質問
Q. 保険料をたくさん払えば、控除も比例して増えますか?
増えません。区分ごとに上限があり、合計でも所得税12万円・住民税7万円が上限です。それ以上払っても控除は増えません。
Q. 控除額がそのまま還付されますか?
されません。所得控除なので、控除額に税率を掛けた分だけ税金が減る仕組みです。
Q. 旧制度の契約はどうなりますか?
2011年以前の契約は旧制度が適用され、区分や限度額が異なります。新旧両方の契約がある場合は計算方法も変わるので、証明書の記載区分を確認してください。
Q. 保険に入っていないと損ですか?
控除だけを見れば「使える枠を使っていない」状態ですが、そもそも保険料を払っていないので、手元に残る現金は多くなります。損得は保障が必要かどうかで決まります。
まとめ
「控除があるから入ったほうが得」は、順序が逆だと思っています。
控除で戻るのは払った保険料の一部で、差し引きでは払ったほうが多い。保障が必要なら入ればいいし、その場合の控除はおまけ。それだけの話です。
年末調整の季節に「入ったほうが得ですよ」と言われたら、一度ご自身の源泉徴収票と控除証明書を並べて計算してみてください。数字を見れば、判断はご自身でつくはずです。
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参考・免責
この記事の制度内容は2026年8月時点で確認したものです。税制は改正されます。控除額・税率・適用条件はご自身の状況によって異なるため、国税庁の資料や、勤務先・税務署でご確認ください。本記事は一般的な情報提供であり、個別の税務助言ではありません。運営者は税理士ではありません。


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