医療保険を考えるとき、多くの人が「入院費」に目を向けます。でも会社員にとって本当に重いのは、入院費そのものより「働けない期間の生活費」です。
医療費には高額療養費制度という上限があります。一方、収入が止まることには上限がありません。
そしてここにも、会社員だけが使える公的な仕組みがあります。傷病手当金と遺族年金です。この記事では、保険を検討する前に確認しておきたいこの2つを整理します。
傷病手当金|働けない期間の収入を支える
傷病手当金は、病気やケガで働けなくなったときに、健康保険から支給される手当です。
いくら、どのくらいの期間もらえるのか
- 金額:おおむね標準報酬日額の3分の2
- 期間:支給開始から通算して最長1年6か月
- 待期:連続する3日間の休業(待期期間)のあと、4日目以降が対象
つまり収入がいきなりゼロになるわけではありません。おおよそ3分の2が、1年半にわたって支えられる計算です。
見落とされやすい前提
ここが重要です。傷病手当金は健康保険(会社員などの被保険者)の制度です。
自営業やフリーランスが加入する国民健康保険には、原則としてありません。同じ「働けなくなる」でも、会社員と自営業では備えるべき金額がまったく違います。
ネット上の「医療保険はいらない」という議論の多くは、会社員を前提にしています。自営業の方がそのまま真に受けるのは危険です。
※ 支給要件・計算方法・待期の扱いには細かい条件があります。実際の金額は加入先の健康保険組合または全国健康保険協会でご確認ください。
遺族年金|万一のときに残される家族へ
生命保険を考えるときに、同じく前提になるのが遺族年金です。
2つの遺族年金
- 遺族基礎年金:国民年金から支給されます。原則として18歳到達年度末までの子がいる配偶者、または子が対象です
- 遺族厚生年金:厚生年金の加入者が対象。報酬比例部分に基づいて計算されます
会社員であれば、この2階建てが基本になります。自営業は遺族基礎年金のみです。ここでも差が出ます。
生命保険を考える順序
必要な死亡保障は、次の引き算で出ます。
「遺された家族に必要な生活費」-「遺族年金」-「貯蓄」-「配偶者の収入見込み」= 保険で埋めるべき額
この計算をせずに保険を選ぶと、すでに公的保障で埋まっている部分に、二重で保険料を払うことになります。
逆に、遺族基礎年金は子の年齢で終了するため、子が独立したあとは前提が変わります。「子が小さい間だけ厚くする」という考え方が成り立つのはこのためです。
会社員が確認しておきたい公的保障の一覧
| 制度 | 内容 | 会社員 | 自営業・フリーランス |
|---|---|---|---|
| 高額療養費制度 | 医療費の自己負担に月ごとの上限 | ◯ | ◯ |
| 傷病手当金 | 働けない期間に標準報酬日額の約3分の2を最長1年6か月 | ◯ | ✕(原則なし) |
| 遺族基礎年金 | 子のある配偶者または子に支給 | ◯ | ◯ |
| 遺族厚生年金 | 報酬比例で支給 | ◯ | ✕ |
| 健保組合の付加給付 | 自己負担上限をさらに引き下げ | 組合による | ✕ |
| 労災保険 | 業務上・通勤中の傷病を補償 | ◯ | 原則対象外(特別加入あり) |
こうして並べると、会社員と自営業では前提がまるで違うことがわかります。
「保険は不要」という意見を読むときは、その人がどちらの立場で書いているかを必ず確認してください。
確認の手順|4か所を見るだけです
- 勤務先の健保組合の規約:付加給付の有無と内容。ここで必要性が大きく変わります
- ねんきん定期便・ねんきんネット:遺族厚生年金の目安を把握できます
- お住まいの自治体のサイト:子供の医療費助成は自治体ごとに対象年齢も自己負担も異なります
- 勤務先の福利厚生:団体保険や見舞金制度があれば、民間保険と重複していないか確認します
この4か所を確認するだけで、自分がどこまで守られているかの全体像が見えます。保険の比較サイトを何時間見るより、こちらが先です。
公的保障だけでは埋まらない部分
公平のために、制度で埋まらない部分も書いておきます。
- 高額療養費の対象外の実費:差額ベッド代、食事代、パジャマやタオル、交通費など
- 待期期間の3日間:傷病手当金は4日目からです
- 1年6か月を超える長期の休業:それ以降は障害年金などの検討になります
- 先進医療の技術料:公的保険の対象外です
これらは現金か保険のどちらかで埋める必要があります。どちらを選ぶかが、保険を持つかどうかの判断そのものです。
よくある質問
Q. 傷病手当金は退職後ももらえますか?
一定の条件を満たせば、退職後も継続して受給できる場合があります。要件が細かいので、加入先の健康保険に確認してください。
Q. 遺族年金はいくらもらえますか?
加入期間や報酬によって変わります。ねんきん定期便やねんきんネットで、ご自身の見込みを確認するのが確実です。
Q. 会社員でも医療保険が要るケースはありますか?
あります。生活防衛資金が薄い場合、健保組合の付加給付がない場合、持病があって入り直せない可能性がある場合などです。
Q. 自営業はどう備えればいいですか?
傷病手当金がないため、働けない期間の生活費を自力で用意する必要があります。就業不能保障や所得補償、あるいは厚めの生活防衛資金での対応を検討することになります。
まとめ
医療保険を検討する前に確認すべきなのは、自分がすでにどこまで守られているかです。
会社員には高額療養費制度に加えて、傷病手当金と遺族厚生年金があります。ここを把握しないまま保険を選ぶと、すでに埋まっている部分に二重で払うことになりかねません。
確認するのは4か所だけです。健保組合の規約、ねんきん定期便、自治体のサイト、勤務先の福利厚生。ここから始めれば、保険で何を埋めるべきかは自然に決まります。
あわせて読みたい:医療保険はいらない?必要?会社員が自分で判断するための4つの質問
あわせて読みたい:会社員の医療費は月いくらまで?高額療養費制度の上限と2026年8月の改正
参考・免責
本記事の制度内容は2026年8月時点で確認したものです。支給要件・金額・期間には細かい条件があり、制度は改定されます。実際の適用については、全国健康保険協会・加入している健康保険組合・日本年金機構・お住まいの自治体でご確認ください。
本記事は一般的な情報提供であり、特定の保険商品の加入・非加入を推奨するものではありません。運営者は保険・年金・税務の有資格者ではありません。



コメント